大工さんの手刻みと本当の「家づくり」
先月、大工さんの作業場に行ったときに、手刻み加工を見せていただきました。
中央が土台(120×120)の腰掛け鎌継ぎの仕口です。
蟻継ぎの仕口も見えていますね。
これは、梁の金輪継ぎです。
金輪継ぎは、組んでしまうと、外部には縦の線が1本見えるだけですが、
内部はこのように、複雑です。
でも、これで、この木は一体となって、頑丈な1本になります。
これは、先日行った祖谷の古民家再生現場の柱ですが、金輪継ぎとして、柱の傷んだところを交換し、1本にしています。
現在の在来工法は プレカット+金物補強 の工法が主流です。
でも、このように、大工さんの手刻みでないとできないこともあります。
いい腕を持った大工さんはどんどん高齢化して亡くなるとともに、その人が持っていた伝統技術もいっしょに消えてしまいます。
私の父も、そういう棟梁のひとりですが、もう70代の半ばを過ぎ、大きな仕事はできなくなりました。(でも、まだ、ちょっとぐらいやってるから すごい。)
先日、新聞で見たのですが、男の子の将来の職業の希望を聞くと、大工や左官などの「職人」という答えが2位でした。
でも、実際の木造現場では、構造本体はプレカット加工品の「組み立て」が主で、建具枠、階段なども「組み立て」、後は、ボード類を電動工具で打ちつけ、クロスを貼って終わりです。
伝統技術を生かす場も無くなってきたし、また、できる職人も減ってきています。
そして、安く抑えられるから、手の込んだ仕事をするのは採算が合わない。
左官さんが仕事ができる家も限られてきました。
今の住宅産業で左官工事が必要な場所は玄関の土間ぐらいでしょうか?
安売りを主とするハウスメーカーやフランチャイズ。
工業製品で固められた住宅。
実際にはあまり安くない大手ハウスメーカーも、職人の技術にお金を払おうとしていません。
また、職人の技術が必要な家も作っていません。
お金のかかる部分は 調査・研究費、技術開発費、広告・宣伝費、営業経費、モデルハウス維持費などでしょう。
施主さんが3000万円払っても 実際に家を作る金額は、半分程度だとどこかで聞きました。
何か、間違っていませんか?
すべての人が、予算がたくさんあるわけではありませんが、私は職人さんにはちゃんと技術料を払いたい。
私はいつも、本物の仕事のできる大工さんや、左官さんを尊敬しています。
私たち設計者は紙の上、またはパソコン上に設計図を描きますが、それを実際に作ることができるなんて。
予算を削るのは他のところ(工業製品や、営業経費など)で したいです。
そうしないと、本当の家はできなくなってしまいます。
商売優先の住宅産業。
今、本物の技術を持った職人は50代以上が主流です。
100年後。
昔ながらの手刻みのできる大工さんや、土壁を作れる左官さんはいなくなってしまうんじゃないか、と危惧しています。
本物の家を作るのは、施主さんの強い意思とそれができる施工者や、いっしょに考えてくれる設計者を探すことです。
お金の問題だけではないことがあります。
私は、そういう、家作りのお手伝いをしていきたいと考えています。
« 木の寿命から見る家づくり | トップページ | 奥津のコブシと津山の夕桜 »
「土壁で外張り断熱の家」カテゴリの記事
- 土壁で外張り断熱の家 春~梅雨のデータ(2010.07.09)
- 土壁で外張り断熱の家 冬のデータ(2010.03.30)
- 土壁で外張り断熱の家 しあわせな住み心地(2009.12.19)
- 土壁で外張り断熱の家 ついに完成(2009.12.17)
- 土壁で外張り断熱の家 オープンハウスのご案内(2009.12.05)
建築職人の実態
建築職人は、手に職があっていいな。と、よく言われますが、今の実態は大変です。
木材はプレカット構造、お風呂はユニットバスがほとんどです。
職人さんの手を必要とするところは少なくなっています。
プレカットの木材をアンカーやボルトで締め、壁は耐火ボードをビスで留めます。
少し器用な人ならそんなに経験が無くても家を建てることが出来る状況です。
昔は仕事にも期間がかかり、刻みに3ヶ月、建前をして床を張り、左官屋さんがこまいを組、荒壁をつけ、乾くまで3ヶ月から半年待って
大工さんが天井を張り、壁を左官屋さんが中塗りして、また、3ヶ月ほど乾かして上塗り、その後仕上げの建具、畳を入れてやっと入居できるシステムでした。
水周りもタイル張り、モルタル仕上げ、外部は漆喰壁と左官屋さんの仕事は沢山ありましたが、今は外壁は樹脂壁、お風呂はユニットバスとなりたしかに左官屋さんの仕事は減ってきています。
また、職人さんは手当ても良いように思われていますが10数年来賃金は上がっていません。逆にハウスメーカーなどによる価格競争から賃金は下がっているともいえます。
良い家を建てるには、耐震強度などより今までの冬暖かく夏涼しい昔の和風建築を見直されるのが、消費者にとって必要とされることになるのではないでしょうか。和風建築によりエネルギーの節約になると考えられます。
このコーナーは建築家の方が見られる場合が多いかと思いますが、消費者の方にもぜひ見て欲しいと思います。
また、木は乾燥すると痩せてくるのでボルトやアンカーは隙間が出来てきます。
以前の組み込み式の刻み方法ではお互い木材が支えあうのでその様なことは少ないです。
投稿: hiko | 2009年4月 5日 (日) 20時39分
そうですね。でも、すべて、昔のほうが良かったというわけでは、ありません。耐震補強も大事です。昔流の土壁の家は寒いし、今は、木は乾燥させてから使うので、狂いも減ってきました。現代の生活のスピードや、融資制度などに合ってないので、工期を1年もかけることは、できにくいです。まあ、着工から3ヶ月で入居する、というのは性急過ぎると思いますが。昔ながらの良いところと、現代の生活にあった快適なところを目指して、家づくりしていきたいと思います。
投稿: めぐ | 2009年4月 6日 (月) 09時53分
はじめまして。
私は最近建築に興味がわいて、この間大学のオープンキャンパスに行って昔の建物には木のジョイントがあることを知りました。
いろいろな形の伝統的継ぎ手を触らしてもらって、とてもおもしろいなぁと思っていろいろ調べていましたが、その伝統的なものたちが減っているなんてビックリしたしとっても悲しいですね。
投稿: ゆうり | 2009年8月29日 (土) 04時45分
そうですね。今、一般的な工務店の家作りも、簡単で、職人の技術をあまり必要としない方向に向いています。私たち、建築士がもっと、伝統工法を一般の人にPRしていかないと、この技術はすたれてしまいます。
建築は奥が深いです。モノを作る楽しさと、住む人の心地良さ・・・・、それが、家族の幸せにも繋がって行きます。そして、何十年も残って行く責任もあります。ゆうりさんのような若い人にも、興味を持って見て欲しいですね。
投稿: めぐ | 2009年8月29日 (土) 11時03分